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ラングホブデ氷河
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12月28日~1月12日の16日間をラングホブデ氷河で過ごした。
ラングホブデ氷河は、昭和基地から約30km南方の沿岸に大陸氷床から流れ落ちている氷河だ。
53次夏隊としてやってきた氷河チーム3名がひと夏をここで過ごし、調査を行なう。
南極観測隊は半世紀を越える歴史を持つが、これまで雪氷学の研究者たちは大陸氷床を主なテーマとして、みずほ基地やドームふじ基地で氷の掘削などを行なってきた。
一方、沿岸部に流れ落ちる氷河についてはほとんど手つかずの状態とのことで、今回の調査は日本の観測隊としては初めての取り組みとなる。
52次隊出発前に今回の調査への協力を依頼され、去年の夏に上空から偵察を行なったり、9月にラングホブデに行った際に調査で使用する燃料をデポしたりと、現場で出来るサポートを続けてきた。
そして、いよいよ本番。
調査期間の前半のサポートが私の役割で、氷河上のルートの偵察、キャンプサイトの選定と設営、氷河上を移動する際の安全管理、掘削の補助などが主な任務となる。
氷河底面まで達する390mの穴を2本開けて観測を行ない、氷河の下にある水深30mの海を観測し、氷河上に数か所にGPSを設置してデータの記録を開始するなど、前半戦はまずは成功裏に終わったといえるだろう。
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12月28日。しらせからヘリコプターを2回飛ばしてもらい、観測物資や生活物資を雪鳥沢の小屋に運ぶ。
私は途中昭和基地でピックアップしてもらい、氷河チームと合流。
久しぶりの再会を喜び、翌日からの偵察に備える。

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雪鳥沢は冬期間に何度も通った場所。
海にはパドルと呼ばれる海氷上の水たまりが増え、凍っていたやつで沢もさらさらと流れている。
青空をバックにナンキョクオオトウゾクカモメが舞っている。
すっかり夏だ。

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南極にはオオトウゾクカモメの天敵はいないため、地面の上に無防備に巣をつくり子育てをする。

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12月29日。オーストラリア人のパイロットが操縦する観測隊ヘリが飛来し、雪鳥沢から偵察キャンプに人と物資を運んでくれる。

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偵察キャンプに入る前に氷河上を飛んでもらい上空から偵察を行なう。
行動予定のエリアを縦横に移動して、クレバスの位置や規模、氷河上を流れる川や池の様子を丹念に調べる。
事前に頭に入れていた衛星写真からのイメージと同じく、クレバスが多くてやっかいな印象をもった。

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偵察キャンプは氷河の左岸側(西側)、氷河から約500mほど離れたU字谷の中の露岩帯に設けた。
9月にラングホブデに来た際、散策ついでに近くの山まで足を延ばし、氷河とキャンプサイトの偵察を行なって候補に挙げておいた場所だ。
近くに雪解け水もあり、なかなか快適なところ。
ここをベースに3日間の偵察を行なう。

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キャンプ設営後、裏山からの偵察を行なう。
氷河を見下ろせる場所までの直線距離は短いが、キャンプサイトの南側は絶壁が続いているために、西側から大きく迂回した後に尾根に取りついてようやくたどり着いた。我々のテントはすぐ足もとだ。
ヘリコプターからでは氷河をじっくりと観察することは難しい。
上空から俯瞰した後に、地に足をつけてじっくりと観察できたのは幸いだった。
それでもやはり「手ごわいな」という印象をぬぐえないまま、今日の行動を終える。
あとは、実際に氷河上を歩いてみて、その素顔に触れてみなければ本当のところは分からない。

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12月30日と31日の2日間で、氷河上の調査候補地をくまなく歩き回った。
実際に氷河に触れてみると、これまで抱いていた印象が杞憂だということが分かった。
行動中に最も気をつけなければいけないのが、雪に覆われて隠れているヒドンクレバスだが、氷河上に積雪はほとんどなく、クレバスの場所は明確に確認できる。
また、縦横に走っているクレバスは幅が狭くすぐ下で閉じているものが多い。
氷河の中央部には大きく口を開けたクレバス帯があるが、そこを避けて安全に移動できるルートが確保できることでまずは胸をなでおろす。
やはり実際に歩き、五感で氷河を感じないと結論は出せないものだ。

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大晦日。9時間に及ぶ行動を終え、キャンプに戻って年の瀬を祝う。
包丁を握るのは最年少の福田君。北大低温科学研究所の博士課程の大学院生で、氷河の流動を研究している。
料理が得意で、色々と細かいところに気がつく若者だ。
私が担当していた大学院生向けの野外技術実習を受講していたことがあり、実際に一緒にフィールドに出られるのが嬉しい。
ネパールの山の中で食事を作ってくれるシェルパに、雰囲気があまりにも似ているので、パサンというあだ名を進呈した。

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海鮮丼で行く年を惜しむ。

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連日フルに身体を動かしたこともあり、正月くらいはゆっくりしようと晴天停滞を決め込む。
朝はお雑煮とお屠蘇で新年を祝う。
写真の澤柿さんは、氷河地形学者。過去2回越冬を経験しているつわもので、頼りになる仲間だ。
学生時代に所属していた山岳部の後輩でもあるので、氷河上でザイルを操る時も殆ど無言で意思が通じ合えるのが嬉しい。

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寝正月とはいえ、やるべきことはやらなければいけない。
キャンプサイト横の丘の上にGPSの基準局を設置する。
氷河上にも数か所GPSを設置するが、岩の上に固定局を置いて、氷河上のGPSの位置情報と照らし合わせることで氷河の流動の速度や方向を観測することができる。

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1月2日。朝から観測隊ヘリが飛来し、年末の偵察を元に決定した氷河上のキャンプサイトに物資を集積する。
いよいよ氷河上での生活が始まる。

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キャンプサイトは広大なラングホブデ氷河のど真ん中。
氷河表面を流れる川のほとりで、天気さえ良ければ最高のロケーションだ。
ただし、風を遮るものはなく、天候が一荒れすれば吹きさらしの中で孤立することになる。
そのために、ここのキャンプサイトから偵察キャンプ地に至るルートに標識旗を立て、悪天が来る前に安全に避難できるエスケープルートを整備した。
偵察キャンプ地まで1時間強、さらに雪鳥沢の小屋まで3時間。4時間ほど歩けば小屋まで逃げることができる。

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テントのそばに自動気象観測装置を設置するパサン。
徐々に観測ステーションが出来上がっていく。

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キャンプサイトに1か所、下流に2か所GPSを設置する。
後日回収されたデータからどんな結果が出るか楽しみだ。

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キャンプサイトの横を流れる川を下流側にたどっていくと、轟々と音を立てて川の水がクレバスに吸い込まれていた。
1週間後に同じ場所に言ってみると、水の流れはほとんどなくなっており、さらに上流側のクレバスに水が流れ込んでいた。
氷河は日々変化している。

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氷河をさらに下って行き、少し幅の広いクレバスを越えると、その先に氷河はなく、目の下に氷山が広がっている。氷河の舌端だ。
ザイルにつながっていなければ覗きこむことなど到底無理だが、しっかりと確保してくれていることを確認して覗きこんで見る。
絶景が広がる。
聞いてみると、英語でカービングフロントと呼ばれる氷河の舌端に立てること自体が稀で、氷河学者の中でもそんな場所に立ったことのある人は殆ど居ないという。
それはそうだ。海に流れ込む氷河のイメージは、常に大音響と水しぶきとともに氷の塊が崩れ落ちているというものだ。
それに対してラングホブデ氷河の末端には平坦な部分が多く、クレバスもあまり発達していない。
そういう意味では、比較的安全に末端までたどり着ける非常に珍しい氷河といえるだろう。

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今回の調査の最大ミッションは、氷河の掘削だ。
高圧にした熱水を氷河に当てて穴を穿つ熱水ドリルを使用する。
運んできた熱水ドリルに不具合が生じ、昭和基地からやってきた53次隊の機械隊員が奮闘してようやく復帰。
すぐそばにプロが居てくれるのはありがたい。

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1月6日。いよいよ掘削開始。
ノズルの先からものすごい勢いで出る熱水をゆっくりと氷河に押し当てる。

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機械隊員が調整してくれた熱水ドリルは快調に動く。
ウィンチに巻きつけたホースを手動でゆっくりと下ろして行く。
ホースを降ろす担当、延びたホースの長さを計測する担当、熱水装置のそばに居て機械の調子のチェックや給油を担当する人、それぞれ持ち場を守りながらゆっくりと掘削が進む。
私は遊軍として手薄なところの加勢に入る。

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ゆっくりとウィンチを回し続けるのは、リーダーで北大の氷河学者の杉山さん。
4年前の日本・スウェーデン合同のトラバース隊に参加した経験があり、南極は2回目だ。
ヨーロッパ、パタゴニア、ヒマラヤなどの氷河で熱水掘削を行なってきたという。
日本で熱水ドリルによる掘削を行なっているのは杉山グループだけで、その第一人者だ。
福田君が受講していた野外技術実習の仕掛け人でもあり、私とは旧知の間。
今回の調査の首謀者だけあって、その気合の入り方には特別なものを感じる。
貫通するまでの10時間、ただ黙々とウィンチを回し続けた。

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1月8日に2本目の穴を貫通させた。
海まで通じた穴を利用して観測が行なわれる。
海水サンプリング、海底の堆積物のサンプリング、水圧の測定、水流の測定などなど。
穴にビデオカメラを入れて、海底の様子も捉えることができた。

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遊軍の私も何かを入れてみようと思い、夏休みの工作レベルのかごを作り、錘とベーコンを乗せて沈めてみた。
何か生き物がかかってくれないかと期待したが、釣果はなし。
作っている間が楽しかったから、まあよしとしよう。

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最後に温度センサーを穴に入れて観測を終える。

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温度センサーのケーブルを400m降ろすだけでもかなりの重さだ。
ケーブルが途中で絡まったり、詰まったりしないように杉山さんが慎重に降ろす。

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驚くべきことだが、2週間一度も天気が荒れることなく、穏やかな日が続いた。

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食堂テントは広くて快適。
ハードワークを支えるのは、快適な住空間と美味しい食事、そしてお酒。

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1月11日。前半戦の観測が無事に終了し、後半戦のキャンプサイトを決めるために氷河上の偵察にでかける。
氷河が地面と接している部分と海の上に浮いている部分の両方で掘削することが今回の目標だが、当初地面の上にあると思われていた最初の掘削地点で海が観測されたため、下流側に予定していた第2掘削地点を急きょ上流側にすることにした。

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少し長めに氷河を遡って、上から氷河を見下ろしてみる。
どこを歩いても人跡未踏の場所。雄大な景色に包まれて幸せを感じる。

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誰もやったことのないことをやる楽しさ。
未知のことを探ろうとする科学者の姿勢と視点。
異分野のプロ同士のコラボレーションで実現する観測。
氷河チームと過ごした16日間は刺激的な毎日だった。
もちろん、危険とは常に背中合わせなだけに、100%気を緩めることはできないが、穴が貫通した時の喜びや良いデータが取れた時の満足げな様子を見ていると、彼らをサポートして時間を共にできたことを幸せに思う。
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